vol.
013
JULY
2016
vol.013 / 東京新陳代謝
玩具的
絵・文:ほしよりこ
20年くらい前、原宿にオープンするレストランの壁画を描くバイトをしたことがある。友人と私が任されたのは、エイジングという作業で、これは綺麗に塗られた壁や壁画などを味わいのある年代物風に見せるという仕事で「よごし」と呼んだりもする。天井が高い劇場のようなレストランでよごしをするときは、スプレーで吹き付けるので、必然的に髪の毛もつなぎも全身がまさに汚れます。
これからできる新しい空間を一生懸命汚して深夜、建物の外に出ると、同い年くらいの女の子が着飾って、カラフルな物を食べながら歩いているが、汚れきった私たちは、タクシーを乗車拒否されホテルまで歩いて帰った。
仕事が始まり2日目にして床の作業が入ったので壁の作業は中断され、オフになった。関西から来た友達と私は、東京が広すぎてどうしていいのか分からなくなった。私はそのとき、東京には高層ビルが多いからということで、双眼鏡を持ってきており「高い建物に登って、他のビルの人が何をしているのか見よう」と、思いつく高い建物、都庁へ向かった。展望台から双眼鏡をのぞき、近くのビルで働いている人や地上を走るおもちゃのような車を追いかけた。ビルの中で動く人もおもちゃのように見え、数えきれない四角い建物も、上手にできたおもちゃのようだし、双眼鏡をのぞく我々だって、なんだかおもちゃみたいに思い出されるのは、街があまりにも巨大だからだろうか。その夜は都庁前の広場で薪能が行われた。双眼鏡はここでも役に立った。
私たちが一生懸命汚した建物は、オープンから10年も存在しなかった気がする。今もその場所を何度も通っているはずなのに、それがどこだったか思い出せない。
当時、東京へ遊びに行くという人に双眼鏡を持っていくことを勧めていた。「高層ビルの展望台から向かいのビルで動く人を見たり、車を見たら楽しいよ」と言うと「でも、それって変態ぽくない?」と時々言われた。