最短距離を走るよりも

山戸：長岡さんは好プレーはたくさんあっても、珍プレーはあまりなさそうですね。

長岡：僕は珍プレーばっかりですよ。もう8割ぐらいが珍プレー。あとの1割が普通で、もう1割が好プレー。そんな割合かな。

山戸：へえ、それは意外ですね。

長岡：ものすごく不謹慎ですけど、実は大事な場面で道を逸れてしまうのが、結構好き。ミスも含めて。

山戸：（笑）。予定調和ではなくなることを楽しんでいるんですね。例えばそれがペトロールズで演奏しているときの場合、ほかのメンバーの方はどんな反応をされるんですか？

長岡：あったかい感じの、苦笑い。常温よりもちょっと上ぐらいの（笑）。監督は撮ってるとき、どうなんですか？

山戸：私も9割9分珍プレーです（笑）。

長岡：珍プレー同士だ（笑）。でもそうやってちょっとつまずいたりぶつかったりしながら、自分はこうしたいっていうものが見えてくるところがあって。それがわかるから、最初から完璧を目指して作り上げていくっていうことは、まずない。

山戸：そうやって迂回しながら作る方が結果、一番ゴールに近い。最短距離を求めると、結局言葉で整理可能なものしか生まれないのかもしれません。

長岡：身体を使って体感的に作りたいっていう気持ちがあるのかも。特に自分ひとりではなくて人と一緒に作るときは、相手の状態もあるからまずはそれを見ながらキャッチボールから始める。監督もきっとそうでしょう？

山戸：はい。それはすごくコミュニケーションのコストがかかる方法ですよね。

長岡：そうそう。

山戸：例えば「ここからあそこまでを全力で走ってください」って役者さんに言うことは簡単ですけど、そうではなくて私の知らないところで自ら駆け出してなりふり構わず疾走していた、ということがときどきあって。でも結果的にその方が奇跡のようなカットに繋がることがあるんですよね。それは当然コストのかかる振る舞いなんですけど。

長岡：予想外のことを呼び起こす。そういう柔軟な身体、振る舞いはいつも自分の中に持っていたいですね。

東京ローカル

山戸：私は大学生のときに愛知から上京したんですが、下北沢のライブハウスで初めてペトロールズを観たときは、それこそ東京だなあって感じました。

長岡：そのときよりはもうちょっとうまくなってるから、またぜひ観に来てくださいね。

山戸：いえいえ、当時も熱狂して帰りました。最近すごく思うことが東京発の自主映画は、私にとってはそれこそライブを観る感覚と近いんですよね。この熱い渦は確実に東京で生まれている。それをどうやって冷ますことなく全国各地や世界に届けられるのだろうっていうことは、東京にいながら私自身ちゃんと考えなければというのが、ここ最近の、ひとつのテーマでした。長岡さんにとって東京はどんな場所ですか？

長岡：若い頃は東京に対して妙なコンプレックスみたいなものがあって「東京、怖いな」と思っていたんだけど、よくよく考えればそれも当時の渋谷や新宿とか、一部の場所に対する印象で。本当は東京ってもっと広くて、いろんな場所がある。探検すると面白いんです。ということに気づいていくと、どんどん自分自身、気楽にいられるようになったというか、東京はローカルだなあって、最近思うようになってきています。まあ、それも年だからかもね。

山戸：東京ローカルか。上京してからの方が、地元にいるときよりも自分の意見が言いやすくなったなっていうのがすごくありますね。フラットでいられる感じは、自分の作る作品に確実に影響してる気がします。

長岡：いろんな人がいるから、そのぶん自由を感じられるんじゃないかな。

山戸：東京はやっぱり多様性がありますよね。長岡さんはこの街にいることで生まれた音楽はありますか？

長岡：空想で曲を作ることはなくて、ここで暮らしていることが自分の音楽に反映されていることはありますね。

山戸：はい、鏡みたいに。ああ、やっぱり聞きたいな。長岡さん、今さっき「それも年だからかもね」って言われたの、ひょっとしてダジャレだったのでしょうか？

長岡：……？？　どういう意味？

山戸：「年」だけじゃなくて、「都市」も含まれているのかなって。

長岡：おお！　笑いたくても笑えなかった？　監督のアンテナが何よりすごい（笑）。