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vol.

012

MARCH
2016

vol.012 / 特集

見えない視線

林口砂里|福原志保|甲斐賢治/北野央|森永邦彦|飴屋法水|津田直

例えばミツバチやモンシロチョウには紫外線が、マムシやハブには赤外線が見えている。もしも人間に違う生物の目を移植したら、今までとはまったく違う世界を生きることになるだろう。どうやら見えないものを認識することで、見えてくることがあるようだ。
宇宙、生命、距離、意識、言葉、時間。
6人の視線の先にあったもの。それは見えない世界を見るということ。

林口砂里福原志保甲斐賢治/北野央森永邦彦飴屋法水津田直


宇宙

宇宙の法則を知ることは、生きる力になる

林口砂里

寿命を迎えようとしている星 「ちょうこくしつ座R星」が発する電波データを可視化した写真。2011年にアルマ望遠鏡が捉えたもの。
Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

見えないものをどう可視化するか、できるか。思えば私はそのことをずっと考えて生きてきたように思います。現在EPIPHANY WORKSという社名で活動していますが、EPIPHANYとは「顕現、直観」。まさに見えないものを見るという意味を込めて付けました。

その上で私がこれまで活動するなかで大切にしてきたことが2つあります。ひとつは宇宙や自然といった、大いなる存在、エネルギー、不可視なものを可視化すること。もうひとつは一般的に常識とされるものとは異なる角度から世界を見ることです。

この世界には様々な手段を使って見えないものを可視化する、優れた人々がたくさんいます。私はそういう人や作品に出会う度に、「これは世の中にしっかり伝えなくてはいけない」と切実に思うのです。そして伝えるための橋渡し役こそ、自分にできることではないか、と。

国立天文台の平松正顕さんもまた、そのひとりです。チリのアタカマ砂漠に建設された電波望遠鏡、アルマ望遠鏡は、日本の国立天文台を始め、世界21の国と地域が共同で運用している巨大プロジェクトです。光学望遠鏡では観測できなかった、超低温の塵やガスの電波を捉えることができるアルマ望遠鏡を使えば、天文学者たちの悲願でもあった銀河や星の成り立ち、そのまた先の宇宙や生命のルーツを探ることができるんです。

チリ・アンデス山中の標高5,000メートルの高原に設置されているアルマ望遠鏡の解像度は、視力に例えるなら6,000。それは東京から大阪に落ちている1円玉がはっきり見えるほど。
Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO

そもそも私たちが知っている物質は宇宙全体のわずか5%、残り95%は正体のわからないダークマター、ダークエネルギーと言われています。つまり私たちはこの世界のことを全然知らないのです。その前提に立って、30年かけてアルマ望遠鏡を作った天文学者たちの情熱、奮闘される姿を私は平松さんを通じて感じ取るなかで、2014年に「ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律」というプロジェクトを立ち上げました。クリエイティブの力を使って科学を広く伝えることをテーマに、寿命を迎えようとしている星の電波データを音に変換したアート作品を制作するなど、現在も様々な展開を試みています。

宇宙の法則を知ることは、私たち人類が普遍的に抱えている謎を解き明かし、生きる力になる。そう信じてこれからも分野を問わず伝えたいことを伝わるかたちに橋渡ししていけたらと思っています。

金沢21世紀美術館企画展『われらの時代:ポスト工業化社会の美術』(2015年5月26日〜11月15日)で展示された、「ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律」。アルマ望遠鏡が捉えた観測データを音と映像に置き換えるという世界初の試みは、PARTYの川村真司さんを始めとする国内外のクリエイターたちの協力のもと実現。
Photo by Keizo Kioku, Courtesy of 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa
  • 林口砂里

    プロデューサー。2005年EPIPHANY WORKS(エピファニーワークス)を立ち上げ、アートプロジェクトやコンサートの企画・プロデュースなどを行う。並行して近年は、地元・富山県にも拠点を持ち、地域振興プロジェクトにも取り組んでいる。
    http://www.epiphanyworks.net/

編集・執筆:水島七恵