vol.
012
MARCH
2016
vol.012 / 特集
見えない視線
林口砂里|福原志保|甲斐賢治/北野央|森永邦彦|飴屋法水|津田直
見えないものをどう可視化するか、できるか。思えば私はそのことをずっと考えて生きてきたように思います。現在EPIPHANY WORKSという社名で活動していますが、EPIPHANYとは「顕現、直観」。まさに見えないものを見るという意味を込めて付けました。
その上で私がこれまで活動するなかで大切にしてきたことが2つあります。ひとつは宇宙や自然といった、大いなる存在、エネルギー、不可視なものを可視化すること。もうひとつは一般的に常識とされるものとは異なる角度から世界を見ることです。
この世界には様々な手段を使って見えないものを可視化する、優れた人々がたくさんいます。私はそういう人や作品に出会う度に、「これは世の中にしっかり伝えなくてはいけない」と切実に思うのです。そして伝えるための橋渡し役こそ、自分にできることではないか、と。
国立天文台の平松正顕さんもまた、そのひとりです。チリのアタカマ砂漠に建設された電波望遠鏡、アルマ望遠鏡は、日本の国立天文台を始め、世界21の国と地域が共同で運用している巨大プロジェクトです。光学望遠鏡では観測できなかった、超低温の塵やガスの電波を捉えることができるアルマ望遠鏡を使えば、天文学者たちの悲願でもあった銀河や星の成り立ち、そのまた先の宇宙や生命のルーツを探ることができるんです。
そもそも私たちが知っている物質は宇宙全体のわずか5%、残り95%は正体のわからないダークマター、ダークエネルギーと言われています。つまり私たちはこの世界のことを全然知らないのです。その前提に立って、30年かけてアルマ望遠鏡を作った天文学者たちの情熱、奮闘される姿を私は平松さんを通じて感じ取るなかで、2014年に「ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律」というプロジェクトを立ち上げました。クリエイティブの力を使って科学を広く伝えることをテーマに、寿命を迎えようとしている星の電波データを音に変換したアート作品を制作するなど、現在も様々な展開を試みています。
宇宙の法則を知ることは、私たち人類が普遍的に抱えている謎を解き明かし、生きる力になる。そう信じてこれからも分野を問わず伝えたいことを伝わるかたちに橋渡ししていけたらと思っています。
編集・執筆:水島七恵