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vol.

013

JULY
2016

vol.013 / 対談

エンターテイナーの条件

武井壮(百獣の王)× 三浦大知(ミュージシャン)

東京の文化を支える表現者たちの心意気を、スポーツのマインドで垣間見る巻頭対談“プレイヤーズトーク”。
第一回目は武井壮さんと三浦大知さんを迎えて、それぞれの舞台での真剣勝負について話を伺いました。

 

三浦:僕が武井さんを知ったきっかけはバラエティ番組です。その番組で武井さん、いろんな種類の動物の倒し方を披露していました。それがもう、最高におもしろくて、大笑いして。

武井:百獣の王だからね。

三浦:(笑)。以来、武井さんのことが気になって、インターネットで調べたり、武井さんの記事を読んだりしているうちに、もともと陸上競技・十種競技の元日本チャンピオンだったと知ってびっくりして。なかでも僕が一番驚いたのは、自己分析の徹底ぶりです。記事か何かで読んだんですけど、「毎日自己ベストを出すために、毎日自分のデータを記録していた」っていうような話をされていて。

武井:そうそう、ひたすら自分のデータを取っていました。小さい頃からよく動く子供で身体を動かすのが得意だったから、これなら将来、自分はスポーツという道で成功できるんじゃないか?って淡い希望を抱いてて。スポーツは頭で思ったことを思い通りできれば、絶対に成功するわけだから、その能力を鍛えれば道は開ける。そう思ったんだよね。

三浦:そう確信したのはいつですか?

武井:小学生の頃。それからは自己分析の毎日で。

三浦:小学生でそんなふうに考えられるっていうのが、もうすごいです。

武井:いや全然すごくもなんともなくて、得意のスポーツをギャンブルにしないで、ちゃんと自分の人生の柱にするために何が必要か? それを考えた結果が、本番でも練習でも調子の良い状態を常に保つ、つまり調子の悪い日をゼロにすることだった。それで高校生の頃から6年間、自分の身体のデータを取り続けてみたんです。

三浦:6年間も!

武井:そう、1日6回部屋の中と外の気温と湿度、身体の挟める部分全部の体温、そして自分が着ている服の素材まで細かくデータを取って、毎回50m走のタイムを計って体調を記録するの。そうすると自分をどの状態に置いたら調子が良くなるのか、悪くなるのかがおもしろいほどわかるから、それをもとに体調をコントロールすると本当にほぼ毎日自分は絶好調(笑)。

三浦:自分のバイオリズムがわかってくるんですね。そうやってまず自分で問いを立てて、その答えをちゃんと持てるということがすごいです。普通はなかなか答えにたどり着けないです。

武井:答えはね、必ずあるんですよ。ただその答えは全員に等しく当てはまる答えではなくて、あくまで僕の身体に対する答えです。で、いまだにそのときの感覚が僕の頭と皮膚の中にフィーリングで残っているから、もし体調が悪くなってもそのとき習得したいろんな対処法でリカバーします。僕、その引き出しの多さだけはマジで世界一だと思ってる。ある意味で変態だよね(笑)。

三浦:それは……、変態ですね(笑)。僕、最近思うのが、インターネットが欠かせない時代でSNSも普及して、それによって他人の評価がそのままなりたい自分の姿にすり替わっている瞬間がすごく増えているような感覚があるんです。まるで他人が作った鏡に映る自分が本当の自分だと思い込んでしまっているような、そういうなかで自分自身とちゃんと向き合うことってどんどん難しくなっているのかなあって。自分がどう動いたら一番気持ち良いか、どういう気持ちで臨めば理想の動きができるのか、自分は今、何が一番したいのか。本当に大切なことは、まず自分の頭で考え抜いて、自分を自己分析することなのに。だからそれをブレずにずっと実践している武井さんに、僕はすごく刺激を受けているんです。

武井:大知くんのような違った分野で活躍する人に、少しでも役立っているのなら、それはすごくうれしいなあ。

三浦:だから僕も武井さんのように調子が悪い状態をできるだけなくしたいというのが前提にあって、その一環として例えばステージに立つ前に何か特別なことは一切しないようにしています。ステージが成功するように願掛けとかもしないですし、これがないとダメとか、そういう状態を作らないようにしていて。自分のステージを周囲のものに絶対に左右されたくないんです。

武井:外的要因が違っても、自分のパフォーマンスは常に一定の状態に高められるように普段からしているということだよね。

三浦:そうですね。

武井:それって言い換えると縦に記録を伸ばすんじゃなくて、横幅や奥行きを自分に持たせているということでもあるよね。

三浦:そういうことになるんですかね。僕、歌もダンスも大事ですけど、最終的には観てくれる方にはエンターテインメントを感じてもらいたいという意識が強いんです。観てくれる方の気持ちに触れて、それで少しでもその方の人生が豊かになってくれたら……、それがすべてだから、自分の歌やダンス単独では、満足したことがないんです。

武井:じゃあ得意なものを伸ばすと言うよりも、弱点を克服しようとする感覚はある?

三浦:はい、できることを少しでも増やしていきたいなって。

武井:そうやって自分の武器を増やしているんだね。でもその大知くんの考え方、僕の走り高跳びの練習にすごく似ていると思った。例えば走り高跳びの選手に10の筋力があるとして、その10の筋力で跳べる高さを最高の技術で跳ぶと、最高の記録が出るわけでしょう。でもそこで急に強風が吹いて背中を押されるといった外的要因が発生したら……。

三浦:バランスが崩れてバーが身体に当たってファールになります。

武井:そう、高く磨いた技術っていうのは縦に高いけど横幅がすごく小さいから、失敗のリスクも同時に高まる。これがね、僕はつまらないなあと思ったんです。つまり僕の可能性を、横幅を狭めてく作業だと。実はこれはスポーツ全般に言えることだと思っていて、アスリートというのはみんな自分にしかできない技術を磨き上げたスペシャリストなんですよ。もちろんそれはとても素晴らしいことだけれども、僕にとっては不安でもあるわけです。なぜならその技術が少しでも横にずれたら、素人になるわけだから。それが僕にとってはスポーツにある一番のリスクだと思っていて。だから僕が走り高跳びをするときに練習するのは「バーに触れずに越える」ことだけを鍛えるっていう。毎回違う場所から助走して、毎回違うとこから踏み切って、毎回違う跳び方でバーを越えるというトレーニングをするんです。走り高跳びの真理はひとつ、バーに触れずに越えれば成功だから。

三浦:自分の思った通りに飛ぶ。さっき武井さんがおっしゃっていたスポーツの本質ですね。

武井:そうそう。例えば水を飲むとき、何も頭でイメージしなくても水は飲めるでしょう。それは行為であって日常なんだよね。でも水を「こうして飲む」という頭からの指令を出して飲むのであれば、それはスポーツ。「こうしたい」がそうできることが、スポーツの原始的な在り方であって真理なんです。