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vol.

013

JULY
2016

vol.013 / 対談

エンターテイナーの条件

武井壮(百獣の王)× 三浦大知(ミュージシャン)

魔法使いになるために

武井:僕は大知くんのようなエンターテイナーに対して、最大限のリスペクトを持っています。だって自分という個体ひとつで、観ている人々に魔法をかけているんだから。大知くんは魔法使いですよ。大知くんが呪文を唱えたら、みんな泣いたり感動したり楽しんだりするんだから。そして僕はそれを観たときに「自分はあの魔法、持ってない」って思ったんです。

三浦:えっなぜ武井さんは魔法を持っていないことになるんですか?

武井:例えば十種競技で優勝しても誰も笑顔にはできなかったから。僕が積み重ねてきたスポーツの能力にはそんな魔法はなかったんです。それに気づいたら、魔法が使える人たちが心から羨ましくなって。アーティスト、芸人、タレント、俳優……、エンターテイナーは高さだけの勝負じゃなくて横幅や奥行きもあって、しかも人を幸せにするという、僕にとってそれは完成形です。もちろんスポーツもエンターテインメントだけど、僕はそのスポーツではエンターテイナーになれなかったから、だったらエンターテイナーになった上でスポーツをやってみようと。それでこの道に入りました。大知くんは、そもそもなぜ歌って踊ろうと思ったの?

三浦:僕の場合、やっぱり子供の頃に出会ったマイケル・ジャクソンの存在が大きいですね。なかでも僕が一番好きなのが、マイケルのミュージックビデオ『Black or White』です。映像ではいろんな国の民族が登場するんですけど、国ごとにセットチェンジされていくなかで、マイケルはその国の民族と民族ダンスを一緒に踊るんですね。それを当時観た僕は子供ながらに「この人はどこで何をやってもマイケルなんだろうな」って強烈に感じて。どこへ行ってもその場所の色に染まることなく、むしろ取り入れながらもすべてオリジナルにしているマイケルがすごくカッコ良かったし、同時に羨ましくなって、僕もマイケルのようになりたいって思ったんです。それが歌って踊ろうと思った原点なんですけど、だからといって自分がマイケルと同じ山の頂上を目指そうとしても、それはきっとできないなって。でも、もしもマイケルに登ってない山があって、僕がその山を自分なりに登ることができたら……、もしかすると“オリジナル”という意味ではマイケルに近づけるかなって、そう信じながらこれまで活動してきました。

武井:“マウント大知”だ。そうだね、美しい山はチョモランマだけじゃないし、山は一番高いから美しいとは限らないから。そんな大知くんは、自分を表現する上で歌とダンスはどういう捉え方をしてるの?

三浦: 僕にとってダンスは歌の世界観を伝えるためのアクティングだと思っているところがあって。だから例えばダンスしない方が絶対に伝わると思ったときには、ダンスを取り入れません。でもそのダンスをしないという選択もまた、自分にとっては一番のダンス的表現だと思っているんです。

武井:それはおもしろいなあ。今の話を聞いていて思ったんだけど、僕は何かをやるときに、その肩書きの人にならないようにしているんです。最初に全部肩書きを行動の言葉に変換して考えていて。たとえ「歌手」と名乗っても誰一人その歌を聴いていなければ、歌手とは言えないでしょう。「歌手」はただの単語でしかない。だから僕にとって「歌手」とは、「歌を歌うことで人が感動する人」になる。その行為、活動のほうが、すごく大事。いつもそうやって考えています。

三浦:武井さんのそうやって物事の本質を見極めていくところに、僕はすごく刺激を受けているんだなあって、今、話を聞きながら改めて思いました。なぜ歌って踊るのか? 僕自身、その本質にたどり着きたいっていつも思っているから。そして最終的には歌手でもなくダンサーでもないジャンル、三浦大知になりたいんです。

武井:僕も肩書きは百獣の王だけど、職業は武井壮。意外なところに共通点があったね。なんだかまだ見えぬゴールに向かって草がぼうぼうに生えているところを「うおー!」って言いながら必死に走っていたら、隣で大知くんも走っているような気がしました。「お、大知もおるやないか」みたいな(笑)。

三浦:武井さんと一緒に走れるなんて、うれしすぎます!

武井:それもここ、東京で走る。僕はこれまで世界中のいろんな街に行ったけど、東京が一番素敵な街だなって、本当に思っているんです。僕の生まれ育ったこの街は、24時間、人がアクティブに楽しめてどんなことでも仕事になる魔法の国。こんな街、世界中探しても見つからない。

三浦:それは本当にそう思います。僕自身、東京から音楽を発信していく意志がすごくあって。もっと言うと、僕は日本語が大好きなんです。日本語の歌が世界にもっと届いてほしいから、それは常に意識しているんです。

武井:うん、最高級のものがそろっているのに、でもその割に東京は「最高に楽しいよ」っていう人の熱は感じにくい街でもあるよね。それは僕、しようがないと思っています。この街のすべてを知ることはすごい労力が必要だし、それこそたくさんの能力と知識がないとすべては楽しめない街でもあるから。だからこそ僕が言いたいのは、ひとつの世界、ひとつの分野に絞って高さ勝負だけで楽しみを得ようとするのはもったいないよっていうこと。横幅と奥行きもあるから、東京という街を360度全方位に楽しむ能力を毎日ちょっとずつでもいいから自分を成長させながら身につけてほしい。そして4年後、ここ東京にはオリンピックという世界最高のスポーツの祭典、エンターテインメントの祭典がやってくるわけだから、それを人生最高に楽しめる自分で迎えてほしいなって本当に思います。僕自身、野球のボールを140キロで投げる練習をしたり、ピアノを練習したり、さらに知らない知識や技術を毎日身に付けようとしてるから。

三浦:僕も、それまで「あいつまた変なことやっているな」って観てくれる人におもしろがってもらえるように頑張ります。

武井:「もういいや」って、その走りを途中で止めてしまう人もいっぱいいるけれど、大知くんは走り続けるね。僕も負けないように走るよ!

三浦:僕、スピードでは十分負けますから(笑)。

  • 武井壮 So Takei

    肩書き「百獣の王」。1973年東京生まれ。元陸上十種競技・日本チャンピオン。昨年秋にフランスで行われた世界マスターズ陸上では、4×100mリレーで金メダルを獲得。7月15日に、トップアスリートたちとの対談本『勝つ人~13人のアスリートたち』(文藝春秋)を発売。
    ツイッターアカウント @sosotakei

  • 三浦大知 Daichi Miura

    ミュージシャン。1987年沖縄生まれ。Folderのメインボーカルとして1997年にデビュー。2005年3月にシングル『Keep It Goin’ On』でソロデビュー。シンガーとして、コレオグラフやソングライティング、楽器までも操る。9月15日からはサンシティ越谷市民ホール 大ホールを皮切りに、全国ツアー「DAICHI MIURA LIVE TOUR 2016」が全国15か所 計17公演行われる。

編集・執筆:水島七恵
写真:大森克己
ヘアメイク:奥野誠(武井壮)、加藤康(三浦大知)
スタイリング:村田友哉 / SMB International.(三浦大知)
衣装協力(三浦大知):VADEL、DOMENICO + SAVIO、winonal、アシックスジャパン株式会社お客様相談室、株式会社IVXJAPAN