TOKYO PAPER for Culture トーキョーペーパー フォー カルチャー

MENU

vol.

015

DECEMBER
2016

vol.015 / 往復書簡

植本一子(写真家)× 尾崎世界観(音楽家/クリープハイプ)

東京を舞台に、日々の想いを交換するふたり

6

第6通 尾崎世界観→植本一子

2017.01.25

あけましておめでとう(現在1月14日)。そして、年末のフェスでライブを見てくれてありがとう。フェスはあまり得意ではないけれど、出ないと忘れられてしまう。バンドにとって試験のような物。あのステージは4万人収容のステージで、最高のライブが出来た時は良いけれど、風邪をひいたりしたら最悪だよね。一瞬で悪い評判が広まってしまう。お客さんが飽きて他のステージに移動してしまわないように、なけなしのシングル曲で繋ぎ止めたりして。飲み会でお気に入りの女子の気をひくのに似ているのかも。面と向かって言いたい事を伝えたのならまだしも、誰かの噂話で自分の評価が決まってしまうような、そんなやるせなさも感じる。それでも、目の前に広がる圧巻の光景は間違いなくあの頃求め続けた物だから、やっぱり嬉しくなる。フェスでしか味わえない特別な気持ち。人の海を前にして、自分が神様になったような勘違いもできる。
下北沢に初めて行ったのは中学生の時。古着屋巡りの予定を立てていたけれど、どう探して良いのかがわからなくて、友達と2人歩き疲れてしまって。仕方がなく駅前のユニクロでズボンを買って帰った。事務所があって、今では毎日のように行くけれど、やっぱり慣れない。だからほとんど出歩かないんだけど、でも無いとやっていけない。大事ではないけれど必要な場所。
フェスと下北沢はなんか似ている。そんな物に支えられているし、これからもそんな物に支えられていくんだろうな。
東京で育ったから、上京も出来なかったし方言も話せない。でも、だから、その分いつでも東京に帰れる。2017年東京で、お互い良い年にしましょう。

  • 尾崎世界観

    4人組バンド、クリープハイプのボーカル・ギター。2012年メジャーデビュー。2016年6月に初執筆の小説『祐介』(文藝春秋)を発売。現在、4thアルバム『世界観』が発売中。