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vol.

013

JULY
2016

vol.013 / 往復書簡

平井理央 × 速水健朗

東京を舞台に、日々の想いを交換するふたり

2

第 2 通 速水健朗→平井理央

2016.08.05

小沢健二。僕にとっても特別な存在です。昔住んでいた下北沢のレコード屋で「愛し愛されて生きるのさ」のCDを買いに行ったことを、昨日のことのように(実際には22年前)覚えてます。通り雨が過ぎ、君の住む部屋に向かう。街で起こる日常の出来事。歌謡曲の東京って「大都会」で「人混み」で「淋しい場所」であるのがデフォルトなんだけど、小沢君が歌う東京は、そうじゃない。もっと日常的で、友だちや大事な人がいる街。だって実際の東京ってそう。まだ上京して間もない、それこそバイトを始めたり、街にもようやく慣れ始めたかなという僕は、小沢健二に東京を教わったように思います。そうだ、B面も「東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー」という東京タワーが出てくる歌でした。2010年の「ひふみよ」ツアーのNHKホールでのことでした。「この街の大衆音楽の一部であることを誇りに思う」という彼の言葉に妙に納得したのを覚えています。
さて、「マイ・アイドル」ですが、僕の少年時代のヒーローは、中日ドラゴンズの野球選手だった田尾安志さん。首位打者争いの中で、5打席敬遠という憂き目に遭い、5打席目で2度空振りしてみせた場面を、まるで昨日のことのように覚えてます。実際には、34年前ですけど。
イチロー選手が、打席でやる投手の方にバットを向けてから、バットをくるっと回す動作は、これはいわゆる「ルーティーン」ってやつですね。イチローさんのあれも、田尾さんへの憧れがきっかけです。彼にとっての少年時代のアイドルも田尾さん。その憧れる気持ちわかります。イチロー、同い年だから。
さて、僕の仕事にもルーティーンというか、決まった手順で行うおまじないみたいなものがあります。ちなみに、僕の仕事は本を書くこと。本を書くときは、いつも最後のワンフレーズを書きあぐねるのですが、その結びを書くのは、いつも同じ場所に決めてます。家から15分くらい歩く古い昭和な喫茶店「フェニックス」です。東京には、古い喫茶店があり、そこも好きです。
平井理央さんには仕事に挑む前にするルーティーンってありますか?

  • 速水健朗

    ライター。メディア論、都市論などが専門。著書に『東京どこに住む』『フード左翼とフード右翼』(朝日新聞出版)、『東京β』(筑摩書房)がある。『クロノス・フライデー』(TOKYO FM)パーソナリティ。