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vol.

012

MARCH
2016

vol.012 / 特集

見えない視線

林口砂里|福原志保|甲斐賢治/北野央|森永邦彦|飴屋法水|津田直

例えばミツバチやモンシロチョウには紫外線が、マムシやハブには赤外線が見えている。もしも人間に違う生物の目を移植したら、今までとはまったく違う世界を生きることになるだろう。どうやら見えないものを認識することで、見えてくることがあるようだ。
宇宙、生命、距離、意識、言葉、時間。
6人の視線の先にあったもの。それは見えない世界を見るということ。

林口砂里福原志保甲斐賢治/北野央森永邦彦飴屋法水津田直


距離

軌跡を振り返り、隔たりを超える

甲斐賢治/北野央

震災時の食にまつわる写真を見て、思い出したことを書く参加型展示「3月12日はじまりのごはん ―いつ、どこで、なにたべた?―」(NPO法人20世紀アーカイブ仙台と協働)。一人ひとり異なる記憶や価値観が、ひとつのシーンから広がっていく。
資料提供:せんだいメディアテーク、NPO法人20世紀アーカイブ仙台 写真:佐藤寛法

ギャラリーや図書館などの機能を持つ公共文化施設、「せんだいメディアテーク」で様々な文化事業に取り組んできた甲斐さんは、震災をきっかけに人と人との距離について考えるようになったという。

「仙台でも、市街地と沿岸部では復旧のスピードに差がありました。物理的な距離以上に、おかれている状況に開きが生まれ、さらに人々は、より大きなダメージを受けた人に配慮して体験を口にすることをためらう。すると、ここに隔たりができる。そんなことを想像して、個々の体験を記録・発信し、伝えるためのアーカイブ活動が必要だと考えました」

東日本大震災から約2か月後、甲斐さんたちは「3がつ11にちをわすれないためにセンター」を開設。市民や専門家が震災に関わる事柄を記録する活動をサポートし、そこから寄せられたデータをウェブサイトでの公開や展示など、様々な形で利活用している。公開する際に心がけているのは、記録が持つ肌理を残すこと。甲斐さんとともに同センターの運営にあたる北野さんは、「情報に正しさやわかりやすさを求めるほど、そぎ落とされていく部分もある」と話し、次のように続けた。

「ノイズのようなものをあえて残すことで、より多くの人が、多面的に、震災というできごとに触れられるのではないでしょうか。記録者の個々のまなざしにこそ、大切にすべきクオリティがある。報道でも研究でもなく『文化事業』だからこそ、それができたのだと思います」

震災から5年。甲斐さんは、同センターの活動に対して、記録と伝達だけではない一面を見出し始めている。

「人との関わりが希薄な社会でも、震災のようなことが起こると、誰もが助け合わざるを得なくなる。それは、人間として豊かな状況でもあると思います。アーカイブは、自分たちの過去の暮らしにアクセスする文化活動。復興の道のりや昔のできごとを反芻しながら、僕たちが今後どうやって生きていくかを考えることができれば、人と人との見えない距離を縮めていけるのではないでしょうか」

  • 甲斐賢治

    せんだいメディアテーク 企画・活動支援室 室長。1963年大阪生まれ。主に地方行政の文化施策に従事するとともに複数のNPOに所属し、社会活動としてのアートに取り組む。

  • 北野央

    せんだいメディアテーク 企画・活動支援室 主事。1980年北海道生まれ。震災を含む地域文化の記録活動のサポートと記録の利活用の場づくりに取り組む。

編集・執筆:平林理奈/Playce