vol.
012
MARCH
2016
vol.012 / 特集
見えない視線
林口砂里|福原志保|甲斐賢治/北野央|森永邦彦|飴屋法水|津田直
ギャラリーや図書館などの機能を持つ公共文化施設、「せんだいメディアテーク」で様々な文化事業に取り組んできた甲斐さんは、震災をきっかけに人と人との距離について考えるようになったという。
「仙台でも、市街地と沿岸部では復旧のスピードに差がありました。物理的な距離以上に、おかれている状況に開きが生まれ、さらに人々は、より大きなダメージを受けた人に配慮して体験を口にすることをためらう。すると、ここに隔たりができる。そんなことを想像して、個々の体験を記録・発信し、伝えるためのアーカイブ活動が必要だと考えました」
東日本大震災から約2か月後、甲斐さんたちは「3がつ11にちをわすれないためにセンター」を開設。市民や専門家が震災に関わる事柄を記録する活動をサポートし、そこから寄せられたデータをウェブサイトでの公開や展示など、様々な形で利活用している。公開する際に心がけているのは、記録が持つ肌理を残すこと。甲斐さんとともに同センターの運営にあたる北野さんは、「情報に正しさやわかりやすさを求めるほど、そぎ落とされていく部分もある」と話し、次のように続けた。
「ノイズのようなものをあえて残すことで、より多くの人が、多面的に、震災というできごとに触れられるのではないでしょうか。記録者の個々のまなざしにこそ、大切にすべきクオリティがある。報道でも研究でもなく『文化事業』だからこそ、それができたのだと思います」
震災から5年。甲斐さんは、同センターの活動に対して、記録と伝達だけではない一面を見出し始めている。
「人との関わりが希薄な社会でも、震災のようなことが起こると、誰もが助け合わざるを得なくなる。それは、人間として豊かな状況でもあると思います。アーカイブは、自分たちの過去の暮らしにアクセスする文化活動。復興の道のりや昔のできごとを反芻しながら、僕たちが今後どうやって生きていくかを考えることができれば、人と人との見えない距離を縮めていけるのではないでしょうか」
編集・執筆:平林理奈/Playce