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vol.

012

MARCH
2016

vol.012 / 特集

見えない視線

林口砂里|福原志保|甲斐賢治/北野央|森永邦彦|飴屋法水|津田直

例えばミツバチやモンシロチョウには紫外線が、マムシやハブには赤外線が見えている。もしも人間に違う生物の目を移植したら、今までとはまったく違う世界を生きることになるだろう。どうやら見えないものを認識することで、見えてくることがあるようだ。
宇宙、生命、距離、意識、言葉、時間。
6人の視線の先にあったもの。それは見えない世界を見るということ。

林口砂里福原志保甲斐賢治/北野央森永邦彦飴屋法水津田直


意識

日常を揺るがす新しいファッション

森永邦彦

「日常と非日常」という二面性を、1着の洋服のなかで表現することにチャレンジしてきました。僕が考える非日常は、現実世界からかけ離れたものではなく、日常のなかにうずもれているもの。僕の洋服づくりは、それまで当たり前に見て、受け入れてきた現象や物事を疑うことから始まります。

例えば、ANREALAGEの2016春夏コレクション「REFLECT(反射)」。このとき発表したのは、スマートフォンでフラッシュ撮影をすると、肉眼で見たときとは別のテキスタイルや色彩が浮き上がってくる洋服です。このアイデアは、「反射」という現象についてあらためて考えてみることで生まれました。反射とは、発せられた光がそのまま跳ね返る現象ですが、もしも違うものが跳ね返ってきたら、「見る」という行為に対して新しいアプローチができるのではないかと考えたのです。

ANREALAGEの2016年春夏コレクション、「REFLECT(反射)」。スマートフォンでフラッシュ撮影すると、カラフルな柄が写る。道路標識や安全服などに使われる「再帰性反射材」の開発会社と共同でつくった、特殊な素材を使用している。
肉眼だと白色に見える。4枚のシャツが上下左右に鏡合わせになったようなシルエットでも「反射」を表現。

多くの人が、洋服を選ぶときにいちばん重要視するのは、「かわいい」「おしゃれ」といった見た目のデザインかもしれません。でも、ファッションがもたらす心の動きはきっとそれだけじゃない。視覚の常識を覆すしかけや、物質的ではないものによる表現で、驚かせたり、わくわくさせたりすることもできます。僕にしかできない「ファッションを通じた世界との接し方」を探るために、生活のなかで目にするものすべてをファッションデザインと結びつけてとらえるようにしています。

着る人の既成概念を揺るがすことは、ファッションの新しい魅力や価値観に気付いてもらうことにつながるはず。身にまとうことで、意識していないものを意識化させるような洋服づくりを、これからも続けていきたいです。

  • 森永邦彦

    ファッションデザイナー。1980年東京生まれ。2003年にブランド「ANREALAGE(アンリアレイジ)」を立ち上げる。2014年、パリ・コレクションデビュー。http://www.anrealage.com/

編集・執筆:平林理奈/Playce